マクロ経済学 I(和歌山大・2023年度前期)

概要

学部標準レベルのマクロ経済学の授業(前半)です。主に、短期的な現象を分析するためのモデルについて学修します。

教科書

分析の出発点

マクロ経済学では、多数の経済主体が行う経済活動の総量平均、あるいは分布などに注目して分析を行います。総量や平均を取る対象としては一国経済を考えることが多いですが、多数の国が集まった集合体や、あるいは国内の特定の地域に注目する場合もあります。

経済主体の集合体を扱うことで、個々の経済主体の分析とは異なる事情が生じます。

仮に Aさんが1万円を持っていて、それを同じ国に住んでいるBさんに渡すとします。この純粋なお金の移動は Aさんにとっては不利益で、Bさんにとっては利益ですね。しかし、一国経済を1つの塊と見る限りは、何も起こっていません。自分の右ポケットから左ポケットに動かすだけで豊かになったり、貧しくなったりしないのと同じことです。

しかし、Bさんが違う国に住んでいたらどうでしょうか?Aさんの国は支払いを行い、Bさんの国は受け取っていますから、明確に富の移動が生じています。

この例はお金の移動だけですが、経済では複雑な取引が行われています。複雑な経済活動を集約する方法が考案されています。中でも最も重要な指標がGDPです。

GDP:最も重要なデータ

GDP について調べると次のような表に出会います。この表は、国民の所得と支出が一致するという考えに基づいて作成されています。所得とは、究極的には労働者と投資家に対する企業の支払いのことです。その源泉は企業の生み出した価値(生産)ですから、所得と生産は定義上同じもので、さらにそれが支出と一致するという関係があるということです。これを三面等価と呼びます。

マクロ経済学を勉強すると、この表の意味するところを読みとることができるようになります。

2020 2021
1.1  雇用者報酬(2.4) 283,445.4 289,398.7
1.2  営業余剰・混合所得(2.6) 72,304.6 77,283.2
1.3  固定資本減耗(3.2) 136,408.2 138,908.2
1.4  生産・輸入品に課される税(2.8) 48,947.0 50,988.1
1.5  (控除)補助金(2.9) 3,211.7 3,628.0
1.6  統計上の不突合(3.7) -331.9 -2,419.7
 
   国内総生産 537,561.5 550,530.4
1.7  民間最終消費支出(2.1) 288,505.2 296,249.6
1.8  政府最終消費支出(2.2) 113,797.6 118,967.8
  (再掲)
   家計現実最終消費 357,664.0 369,429.5
   政府現実最終消費 44,638.7 45,787.9
1.9  総固定資本形成(3.1) 136,749.0 141,014.7
1.10 在庫変動(3.3) -1,061.6 1,016.1
1.11 財貨・サービスの輸出(5.1) 84,371.0 103,636.7
1.12 (控除)財貨・サービスの輸入(5.6) 84,799.5 110,354.5
 
   国内総生産 537,561.5 550,530.4
  (参考)海外からの所得 29,794.4 41,193.2
     (控除)海外に対する所得 10,155.6 11,942.6
      国民総所得 557,200.3 579,781.0

理論

マクロ経済理論は、このGDPがどのように振る舞うかに関する学問です。GDPが通常より低い水準にあることを景気後退と呼び、その程度が大きい場合を不況と呼びます。マクロ経済学の1つの目標は、景気後退や不況から抜け出す方法を学ぶことです。

実は、長期的にはGDPは拡大する傾向があります。これを経済成長と呼びます。ある国は非常に速い経済成長を経験し、別の国はゆっくりとしか経済成長していないという状況が観測されます。マクロ経済学の関心はこのような経済成長率の諸国間の格差についても展開していきます。

不況からの脱却は主に数年スパンでの仕事ですから、短期のマクロ経済分析です。経済成長というのはもっと長いスパンで起こるので、長期の分析が必要になります。短期と長期の違いがあるということを認識した上で、適切なモデルを選んで分析できるようになることがこの授業の目標でもあります。